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Japan Agricultural Machinery Manufacturers Association(JAMMA)

W.潤滑油の基礎


1.潤滑油の製造過程概略


[潤滑油ができるまで]

                    潤滑油の製造過程

[潤滑油基油(ベースオイル)の製造工程]


               潤滑油基油の製造工程

2.基油の分類

 米国石油協会(API;American Petroleum Institute)では表に示すように潤滑油の基油を分類している。
 グループT〜Vは原油由来の基油であり、含有する硫黄の量、飽和分、粘度指数を指標としている。
  ・グループT:世界的に最もポピュラーな基油である。
  ・グループU:硫黄分が少なく飽和分が多いため、グループTよりも熱酸化安定性に優れるとされる。
  ・グループV:グループUと同様に、熱酸化安定性に優れるとされる。
         加えて、低温特性が優れること、温度による粘度変化が少ないこと(粘度指数が高い
         こと)が特長である。
 グループW、Xは表に示すような合成油である。

分類 硫黄分%   飽和分% 粘度指数
グループT >0.03  and/or  <90 80〜119
グループU ≦0.03 and ≧90 80〜119
グループV ≦0.03 and ≧90 ≧120
グループW ポリ-α-オレフィン(PAO)
グループX グループT〜Wに属さないもの(エステル等)

3.粘度規格

 潤滑油の要求性能の1つとして適正な粘度特性を有する事が重要である。
 潤滑油類の(粘さ)を現す単位として、以下の2種類の規格が広く使用されている。
 (1) SAE粘度分類
 (2) ISO粘度分類

[SAE分類]
 この粘度分類は低温粘度2種と高温粘度2種を規定しており、低温粘度とHTHS(High Temperature and High Shear)粘度は絶対粘度、高温100℃粘度は動粘度の単位で表示される。
 高温、低温いずれかの粘度分類に当てはまる油をシングルグレード油、高温・低温両方の粘度分類に当てはまる油をマルチグレード油という。
 シングルグレード油に比べマルチグレード油は粘度指数(VI:Viscosity Index)が高い。つまり、温度変化に対して粘度変化が少ない油の方が粘度指数が高い油となる。
 次表に米国自動車技術者協会(SAE:Society of Automotive Engineers, USA)が定めた粘度分類を示す。

自動車用エンジンオイルの粘度分類(SAE J300−Jan 2015)
ASTM試験法 D5293 D4684 D445 D483
SAE粘度分類 低 温   ※5
クランキング(CCS)粘度

以下,mPa・s
低 温  ※6
ポンピング粘度 MRV

以下,mPa・s
動粘度 (100℃) ※7
高温高せん断(HTHS)粘度
(150℃,106s-1)
以上,mPa・s
以上,mm2/s 未満,mm2/s
0W
5W
10W
15W
20W
25W
8
12
16
20
30
40

40

50
60
6200(-35℃)
6600(-30℃)
7000(-25℃)
7000(-20℃)
9500(-15℃)
13000(-10℃)










60000(-40℃)
60000(-35℃)
60000(-30℃)
60000(-25℃)
60000(-20℃)
60000(-15℃)
3.8
3.8
4.1
5.6
5.6
9.3
4.0
5.0
6.1
6.9
9.3
12.5

12.5

16.3
21.9






6.1
7.1
8.2
9.3
12.5
16.3

16.3

21.9
26.9






1.7
2.0
2.3
2.6
2.9
3.5
(0W-40,5W-40,10W-40)
3.7
(15W-40,20W-40,25W-40,40)
3.7
3.7
 ※5 CCS:Cold Cranking Simulator
 ※6 MRV:Mini-Rotary Viscometer
 ※5 HTHS:High Temperature and High Shear Rate


ギヤオイルの規格(SAE J306)
SAE粘度グレード 150,000mPa・sに
達する最高温度 ※8
動粘度(100℃) mm2/s
最低 ※9 最高
70W
75W
80W
85W
80
85
90
110
140
190
250
-55
-40
-26
-12







4.1
4.1
7
11
7
11
13.5
18.5
24
32.5
41




11
13.5
18.5
24
32.5
41
 ※8 ASTM D2983
 ※9 CEC L-45-A-99,Method C(20h)テスト後の粘度

[ISO分類]
 ISO粘度分類は、40℃における潤滑油類の粘度で規定されており、単位は(mm2/s)を採用している。
 分類は2~3,200 mm2/sまでで、20グレードが設定されていおり、各粘度は表示粘度を中心として上下にそれぞれ10%の許容範囲を設けている。
 以下に工業用ISO粘度分類を示す。

工業用ISO粘度分類
ISO粘度グレード番号 中心値の動粘度 mm2/s
(40℃)
動粘度範囲 mm2/s
(40℃)
ISO VG 2
ISO VG 3
ISO VG 5
ISO VG 7
ISO VG 10
ISO VG 15
ISO VG 22
ISO VG 32
ISO VG 46
ISO VG 68
ISO VG 100
ISO VG 150
ISO VG 220
ISO VG 320
ISO VG 460
ISO VG 680
ISO VG 1,000
ISO VG 1,500
ISO VG 2,200
ISO VG 3,200
2.2
3.2
4.6
6.8
10
15
22
32
46
68
100
150
220
320
460
680
1,000
1,500
2,200
3,200
1.98 以上
2.88 以上
4.14 以上
6.12 以上
9.00 以上
13.5 以上
19.8 以上
28.8 以上
41.4 以上
61.2 以上
90.0 以上
135 以上
198 以上
288 以上
414 以上
612 以上
900 以上
1,350 以上
1,980 以上
2,880 以上
2.42 以下
3.52 以下
5.06 以下
7.48 以下
11.0 以下
16.5 以下
24.2 以下
35.2 以下
50.6 以下
74.8 以下
110 以下
165 以下
242 以下
352 以下
506 以下
748 以下
1,100 以下
1,650 以下
2,420 以下
3,520 以下

4.グリースについて

[グリースとは]
 グリースとは、「液体潤滑剤(基油)と増ちょう剤からなる、半固体状または固体状の潤滑剤」と定義がされており、外力を与えない状態では、潤滑油のように流動することはなく静止していますが、撹拌など外力を与えると流動する性質を持っています。グリースの成分は、基本的には、基油(原料油)と増ちょう剤、添加剤の3つからなります。
 増ちょう剤は微細な固体で、リチウム石けん、カルシウム石けん等の石けんと、ウレア等の非石けんがあります。図1 は、グリース中に分散しているリチウム石けんの増ちょう剤の様子を示した電子顕微鏡写真です。増ちょう剤が繊維状に絡んでいる様子が見られます。この繊維が油を抱き込み、グリースの構造を維持しています。潤滑個所が、静止しているときは半固体状のままですが、潤滑個所が動き始めると共に流動し、更にせん断速度が大きくなると基油に近い状態まで流動化します。そして、また静止すると、半固体状に戻ります。このような特性はグリース中の増ちょう剤の網目構造によります。以上のように、増ちょう剤の網目構造は非常に重要で、この網目構造が壊れてしまうとグリースが軟化したり、グリースが本来有する性能を損ないます。網目構造が壊れてしまう原因としては、機械的な強いせん断や、高温条件での使用があります。機械的なせん断に対するグリース構造の強さを、機械的安定性といいます。また、水分が混入によって液状化し、漏えいする場合もあります。



[グリースの組成]

  1. 増ちょう剤
     グリースの耐熱性や機械的安定性は増ちょう剤の種類に大きく依存します。増ちょう剤の種類としては、リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けんなどの石けん系と、ベントナイト、シリカゲル等の無機物、ポリウレアなどの有機物があります。
     グリースはこの増ちょう剤の種類によって分類され、石けんを増ちょう剤として用いるものを、石けん系グリースといい、それ以外の増ちょう剤を用いる場合は、非石けん系グリースといいます。また、石けん系増ちょう剤の耐熱性を改良するため、一方に脂肪酸を、もう一方に他の有機酸を導入した錯塩石けんはコンプレックスグリースと呼ばれます。
  2. 基 油
    グリースの酸化安定性、低温特性、蒸発損失などは、基油によって大きく支配されます。基油としては、グリースの使用目的によって鉱油または合成油が選ばれます。
    鉱油は、安価であることからグリースの基油として広く使用されていますが、組成の違いからパラフィン系油とナフテン系油に大別されます。ナフテン系油は増ちょう剤との親和性が良いことから多く使われていましたが、最近では供給性の問題から主にパラフィン系油が使われるようになっています。合成油としては、エステル油、PAOなど合成炭化水素油、エーテル油などが使用され、鉱油では適応できない厳しい潤滑条件下で使用されます。
[グリースの要求性能]
 グリース全体に共通して求められる主要な性能は以下の通りです。
  1. 適正なちょう度
     ちょう度は、グリースの硬さを表す指標です。ちょう度の分類は、NLGI(米国潤滑グリース協会)によって定められた、NLGIちょう度分類が代表的で、現在は、国際的に標準化されています。表1に示すとおり混和ちょう度の値により区分され、各ちょう度番号に分類されます。

    ちょう度分類

    ちょう度番号
    (グレードNo.)
    混和ちょう度 外観


    000
    00
    0
    1
    2
    3
    4
    5
    6
    445〜475
    400〜430
    355〜385
    310〜340
    265〜295
    220〜250
    175〜205
    130〜160
    85〜115
    半流動体
    半流動体
    軟質
    やや軟質
    普通
    やや硬質
    硬質
    硬質
    固体
     潤滑油の粘度同様、グリースのちょう度は潤滑性において非常に重要となります。グリースが軟らかすぎると、漏れや、油膜切れをおこしたり、グリース潤滑部分以外にグリースが入り込むことで、騒音の発生や撹拌抵抗の増加、発熱がおきたりする可能性があります。逆に、硬すぎると、抵抗が大きくなりすぎたり、油分の供給が不足したりし、潤滑不良を起こす場合があります。ちょう度は、増ちょう剤の種類や量、基油の組成や粘度に関係しています。
  2. 耐熱性
     グリースは、熱によって増ちょう剤の繊維構造が破壊されたり、酸化劣化を生じたりして、グリース構造が維持できなくなり、軟化や軟化による潤滑不良、騒音等の原因となります。グリースの耐熱性は、増ちょう剤の熱安定性に大きく依存するため、増ちょう剤の種類によって、耐熱温度が異なります。製鉄機械、製紙機械や、自動車部品の中でも高温で使用される部品等には、高い耐熱性が求められます。グリースの耐熱性の指標の一つとして滴点があります。
  3. 耐水性
     グリースが水によって流されにくい性質や、吸水しにくい性質、または、吸水や混合したときに性状変化が起きにくい性質を、耐水性と呼びます。上記のように、水に対する性質は複数あるので、グリースが使用される環境において、問題ないかどうかを考える必要があります。具体的な試験方法としては、水洗耐水度試験や、水を混ぜたシェルロール試験等が挙げられます。
  4. 極圧性・耐摩耗性
     高荷重や衝撃荷重がかかる部位に使用されるグリースには、耐荷重能や耐摩耗性が必要です。グリース成分中の、基油粘度や、極圧添加剤の有無が関係します。
  5. 酸化安定性
     グリースは高温時等に空気中の酸素と反応して酸化劣化することにより、異臭の発生や、グリースの変色、ちょう度の変化および滴点の変化などを起こすことがあります。酸化安定性を良くする目的で、酸化防止剤が添加されますが、基油や増ちょう剤の種類も酸化安定性には関係してきます。
  6. 機械的安定性
     グリースは潤滑部において機械的せん断を受けることで、軟らかくなります。増ちょう剤のグリース構造が、せん断によって破壊されるからです。そのため、機械的安定性は増ちょう剤の種類に依存します。機械的せん断によってちょう度が変化し、グリースの漏れ、潤滑不良、騒音などの現象が起きる可能性があります。
  7. 防錆性、腐食防止性
     潤滑油同様、金属への防錆性、腐食防止性がグリースには求められます。水を使用する箇所では、錆が問題になります。また、銅または銅合金が軸受の保持器に用いられる場合、グリースの銅に対する腐食性が問題となることがあり、従って最適な添加剤によって強化されたグリースが求められます。

[グリースの規格]
  1. JIS規格
    JIS K2220では用途によって7種類の分類が規定されており、さらに成分及び性能、ちょう度番号によって下表のとおり細分されています。


    JISにおいて種別ごとに増ちょう剤の種類や性能が説明されていますが、一般的にはリチウム系およびカルシウム系増ちょう剤が汎用的に用いられています。 

  2. JCMAS規格((一社)日本建設機械施工協会規格)  
     上記JIS規格ではすべり軸受が多い建設機械用の給脂部に対する要求品質と乖離しているため、建設機械メーカーやグリースメーカーはそれぞれ独自に開発したグリースが採用されていましたが、一方で、市販リチウムグリースで装置トラブルを発生するなど混乱が生じていました。
     このような現状を鑑み(一社)日本建設機械施工協会(JCMA)によってJCMAS P04:2004(建設機械用グリース)が制定され、下表のとおり建設機械用一般グリースと建設機械用生分解性グリースが分類されました。一例として建設機械用一般グリース(GK)の性能基準を表に示します。
     なお、本規格に適合するグリースは建設機械のみならず農業機械にも使用できます。








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